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堅い話は抜きにして…ま、力を抜いてノンビリしようじゃないか
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04.19.17:09

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  • 04/19/17:09

07.10.23:03

SS  「方舟(はこぶね)」


ヒタ、ヒタ、と、冷たいコンクリートの床を踏む静かな音。
そんな音が響く程の静寂と、明かりの無い夜の闇に包まれた空間。歩く者の姿はそれに隠れて見る事は出来ない。
目の前には大きく歪んだ鉄の扉、押し開けると天井に空いた穴から差し込む月明かりが中を照らしていた。




 




辺りに広がる瓦礫と残骸、積み重なったその下にも更に何かがあるのだろう……まぁ、掘り返してみる程の興味も無いのだが。

何者かに叩き割られたモニターの画面。
配線が剥き出しになったまま、当の昔にその機能を止めているであろう、何かの機械。
割られた試験管、足元に散らばるその破片。
視線を横に走らせれば、瓦礫と床の隙間から微かに見える赤黒い何かの痕――

ふと、大きな石が動いたような重い音が扉の方から聞こえ、振り返る。

「――また、探検かい?」

薄暗い闇の中にフワリと紫と緑の光が浮かぶと渦を巻くようにそれは形を為して、やがて顔のような形へと変わる。要石を浮かしては降ろし、歩くようにして彼へと近寄って来たその声の主――ミカルゲを見遣ると、フンと鼻を鳴らして彼は最後に見た瓦礫へと目を向ける。

「――見れば見る程、此処で昔何があったのかが気になってな。」

月明かりの中に姿を現す灰と深紅の鬣。屈んで床の痕を爪でなぞると目を細めた、何年前か分からない、匂いもしない程に干からびてしまっているが、恐らく……彼、ゾロアークは目の前の瓦礫に目を向けた。

「…君が知っても、楽しくないよ。」
「…まぁ、居候が世話になってる相手の家に深入りするのも褒められた物じゃあないしな」

月明かりの下に姿を晒し、先程まで見つめていた瓦礫に腰を下ろしてミカルゲと対峙するような形になる。間も無く相手ももフワリと浮かんで月明かりの下へと姿を見せた。

「“お前ら”には感謝してる。追われて、手負いになってた俺を匿ってくれた上に……こうして住ませてもらってんだからな。」
「…都合も良かったしね。僕は、この場所に害を為す者を入れたくなかった。君も追われてて、身の安全を確保できる場所が欲しかった……偶々利害が一致した。それだけだよ。」
「……もう半年、か―」

そう言ってゾロアークは夜空見上げる。自慢の鬣の先を僅かに持ち上げると、視線をミカルゲへと降ろす。
「――どうして、俺を助けた?」

「さっきも言ったけど、利害が一致した。……あとは、気まぐれ…かな」
ゴト、と僅かに身体を斜めに向けて“彼”は返した。彼らの話声さえなければ、まるで時が止まっているかのような空間の中で、クク…と小さく笑いが起こる。

「気まぐれ、か。……けど、お陰で話し相手には困らなくなった。何せ、108匹もいるんだ。」
「それはどうも、僕らも君の力のお陰で助かってるよ…ずっと、この風景しか見ていないから。 また綺麗な景気をを見せて欲しいな…って、ラグナが言ってたよ。」
「あぁ……シードラ、だったか?」

フッとミカルゲから一粒の光が出てくると、その光はまだ子供らしいシードラへと変わり、頷くと間も無く消えてミカルゲの中へと戻って行く。
ミカルゲは108の魂が集まって生まれるポケモンとは聞いていたが、中に108人もいる、とは考えた事は無かった。暇を見てはこの建物を散策している彼にとって、一番の発見はコレなのかもしれない。

「――ラグナ、ロイド、フィーナ、ゲイル、ジェスタ、キリエ――」

ふと、ゾロアークは彼らの名前を一つ一つ呟き始めた。10人、20人、50人、70人、90人、100人…止まる事無く、呟いて行く。

「ツヴァイ、メーヴェ、プラス、ウォンド、ニーア、ガゼル、バルク――」

――107人目を呟いて、初めて止まった彼の口。
「…あとは、お前の名前だけだ。」

「参ったなぁ…まさか、皆覚えてるとは思わなかったよ」
困ったような口調とは裏腹に、目の前のミカルゲは楽しげに笑って返す。
「じゃあ、その前に君の名前を教えてくれないと。」

む…と、顔をしかめるゾロアーク。暫し彼を見下ろしていたがやれやれと肩を竦めると、青緑色の目を向けて口を開いた。
「そういや、名乗って無かったな……俺はノア。ゾロアークの、ノアだ。」

ピク、と一瞬だけミカルゲが反応したような気がした。
ノアが質問を返そうとするよりも先に、ミカルゲは返した。
「僕はもう、名前は捨てたよ。」

「……おいおい、教え損かよ。」
不機嫌そうに喉を鳴らす彼を見上げて笑った。そして、続ける。
「という事でさ…何か考えてみてよ、ノア。」
いつの間にかペースを握られていたと気付き、大きくため息をついて頭を掻く。そうこうしているうちに間も無く、答えが返って来た。

「……アーク。『方舟(はこぶね)』って意味だ」
「――方舟?」
「多分、お前がコイツ等のリーダーなんだろ?……他のヤツと話してる中で、お前は皆の拠り所だったんだな、って思った。」
「それで、方舟?」
「……文句あるか?」

フフッ…と、控えめな笑みを見せながらミカルゲは首を振った。

「いいや、気に入ったよ……じゃあ、僕の名前はアーク。宜しくね、ノア。」
「あぁ……改めて宜しくな、アーク。」

互いに笑みを交わすノアとアーク。それもつかの間で、「見回りに行って来る」と、ノアが立ち上がる。アークの横を通って天井の穴から飛び出そうとするが、ふと足を止めると彼に背を向けたまま口を開いた。

「そういえば最近、ガブリアスが時々来るな……隻眼の。」
「隻眼のガブリアス?」
「あぁ、左目がな。あと、マントを羽織ってた……近づけないようにはしてるが…知り合いか?」
「……いいや、違うと思う。」

ほんの少し変わった声色にノアは首を傾げながらも、「行って来る」と一言。飛び出した次の瞬間にはヤミカラスへと姿を変えて夜空に消えて行く。

残されたミカルゲ――アークは、ポツリとつぶやいた。

「……ヒース…?」
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